貿易統計とは?
■はじめに
こちらは貿易統計についてまとめたページです。いつ、どこで、どんな商品が、いかほど輸出入されているか?貿易統計を知れば、ある商品の取引内容を地球規模で知ることができるので、貿易取引やマーケティングで活用することができます。しかし、貿易統計は複雑であり、ある程度の専門知識を要します。こちらのページがその理解の一助となれば幸いです。
■Ⅰ. 貿易統計の基本概念
Ⅰ-1. 貿易統計とは何か?
貿易統計(通関実績/税関統計)とは、文字通り、その国の貿易についてまとめた統計です。貿易統計は他国との商品取引を表し、貿易の実態を正確に把握し、世界経済の動向を知ることのできる指標です。商社やメーカーなど私企業のマーケティング、政府による経済政策立案や研究者の学術資料として活用されています。
貿易統計は「経済統計に関する国際条約(1928年/国際連盟主導)」及び各国の国内法に基づいて作成されています。同国際条約は、各国の経済情勢及び発展を比較可能にすることを容易にするために締結されたものです。1952年に国連(UN)主導で一部改訂されました。
日本では貿易統計のことを通関実績、通関統計、税関統計と呼ぶこともあります。日本の貿易統計は上記条約以外にも、関税法や関税定率法などの国内法にも基づいて作成されています。
Ⅰ-2. 誰が作成し、どこで発表されるのか?
貿易統計は各国の税関で集計されたデータを各国の統計担当省庁がまとめ、毎年(毎月)発表しています。貿易統計は、商社やメーカーなど私企業などが、各国の税関に貨物(商品)を通過させる際に提出する輸出申告書、若しくは輸入申告書に基づいて作成されています。(※その他、積戻し申告書なども含む)
貿易統計は、各国の行政ウェブサイトや、書籍(月報、年報)などの形で公表されていますが、その情報量や発信時期は国によって異なります。経済先進国からは毎月コンスタントに公表されていますが、開発途上国ではそうではない場合もあります。貿易統計自体を公表しない国も一部あります。
各国の担当省庁は貿易統計を国連にも提出しており、それらデータは国連運営サイトであるUNComtrade(comtradeplus.un.org)においても公表されます。ただし、そのデータ範囲はHSコード6桁(世界共通)の品目に限られ、各国が独自に設置している7桁以下の詳細品目は反映されておらず、私企業が活用するには不十分であることが多いです。
一方、各国の業界団体などが、政府発表の貿易統計を二次的に編集した資料(※例えば自動車輸入統計など)を出しています。それらはよく整理されており私企業にとっても有効なデータとなるでしょう。
日本の貿易統計は財務省(関税局)が作成し、Webページ(customs.go.jp/toukei/info)において毎月公表しています。外国でもそうですが、統計が発表されまで、約1カ月のタイムラグがあります。例えば1月分の詳細な貿易統計(確報)は2月の末になります。
■Ⅱ. HSコードの概念と特定の方法
Ⅱ-1. HSコードとは?
貿易統計は、HSコードという世界共通の品目番号(関税番号)によって分類されています。わずかな例外を除き、全ての輸出入貨物はいずれかのHSコードに分類されます。
HSコードは、HS条約という国際条約に基づいて作成されています。HS条約の正式名称は「商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際条約(International Convention on the Harmonized Commodity Description and Coding System)」です。
1988年1月に発効した条約であり、2025年1月現在、160か国・地域及びEUが加盟しています。
HSコードは、類(Chapter/2桁)、項(Headings/4桁)、号(Sub-headings/6桁)、国内細分(domestic code/8~10桁)の順で系統的に分類されており、コードの桁数が増えるにつれて、より細かな品目が特定されるようになっています。

※他にも補助的な分類として、類の上位に部(Section)があり、項の上に節(Sub chapter)が設けられています。
HSコードの数は、2桁が全97、4桁が約1,200、6桁が約5,200となっており、フルコード(※日本の場合は9桁)まで含めると約1万前後の品目数があります。
HSコードは、6桁までは世界共通のコードを使うことが義務付けられていますが、7桁以下は各国が自由に設置することができ、各国でフルコードの桁数も異なります。例えば、日本は9桁ですが、中国は8桁、韓国は10桁がフルコードとなっています。
※参考:経済産業省WebサイトのHSコード説明ページ:https://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/epa/process/i-step2.html
Ⅱ-2. HSコードを特定する方法(企業)
税関に問い合わせるのが最も正確性が高い方法になります。日本の場合、「事前表示制度」を使って問い合わせることができます。原則として文書による照会となっています。文書による照会は正確性が高いというメリットがありますが、回答までにある程度の日数を要します。一方で、電話や税関窓口での口頭による照会の方法もあります。その他に、通関士や通関業者に特定を依頼するという方法もあります。
(※事前教示制度についてはこちらを参照https://www.customs.go.jp/tokyo/zei/jizenkyoji.htm)
自身で特定を行う方法もあります。その場合、日本の場合、輸出は「輸出統計品目表」、輸入は「輸入統計品目表(関税率表)」から特定することになります。同品目表以外にも、「関税率表解説・分類例規」を参考にすると良いでしょう。いずれも税関のサイトに掲載されています。
日本以外の国に関しては、各国の同様の制度やウェブサイトを使って照会・調査することになります。
■Ⅲ. 貿易統計の仕組み
Ⅲ-1. 貿易統計の種類と切り口
1)貿易統計には、①普通貿易統計、②補助貿易統計の二種類があります。
➀普通貿易統計:一般的な輸出および輸入の統計です。
②補助貿易統計:税関別統計、船舶航空機入出港統計、金貿易統計、通貨貿易統計などがあり、国ごとに公表範囲も異なります。
2)また、貿易統計には、①品別と②国別の、主に二種類のデータタイプ(切り口)があります。
➀品別データ:品目を基準に、各品別にどのような国と取引したのかを表したもの。
②国別データ:国を基準に、各国別にどのような品目を取引したのかを表したもの。
その他に、日本は補助的な貿易統計(補助貿易統計)として、特殊貿易統計と通貨貿易統計というものを設けています。特殊貿易統計の中には、金統計、船用品機用品積込統計などが含まれています。いずれも公表されています。
Ⅲ-2. 貿易統計の項目
貿易統計(普通貿易統計)は基本的に以下の項目により構成されます。
- 年/月(Year/ Month):取引がなされた時期
- 輸出/輸入(Export/ Import):その取引が輸出か、若しくは輸入か
- 再輸出/再輸入(Re-Export/ Re-Import):輸入した商品を再び輸出/輸入すること。日本の場合、再輸出入統計は日本独自設定のHS00類に分類
- 国家(Country/ Reporter):基準国名
- 相手国(Partner):取引相手国名
- 品目コード(Code/ Commodity Code):取引商品のHSコード
- 品目名(Product label/ Description):取引商品の商品名
- 金額(Value):取引商品の金額
- 数量1(Quantity/ Netweight (kg)):取引商品の数量。基本的にKG表示だが、国によってはグラム(g)表示の場合もある。
- 数量2(Quantity/ Supplementary Quantity):取引商品のもう一つの数量。
- 単位(Unit):数量2の単位。
■Ⅳ. 企業における貿易統計の活用方法
Ⅳ-1. 平均単価分析(Unit Value Analysis)
相場を見抜く!
貿易統計には各商品の価格と数量が計上されていますが、価格を数量で割ると各商品の平均単価を導くことができます。平均単価が分かるということは、同商品の(貿易取引における)およその相場が分かるということです。そのため、私企業が貿易をする際に、取引相手との価格交渉における目安にすることができます。私企業にとっては最も活用度の高い分析手法になるでしょう。
平均単価を知ることは企業の利益に直結する重要な情報活動です。先方との価格交渉の際、輸出においては平均単価と同等かそれを上回ることが交渉の目安になります。逆に、輸入においては(同単価と同等か)下回ることが目安となるでしょう(※貿易統計における輸入価格には保険料や運賃も加算されていることに注意)。そうすることによって自社の利益を最大化できます。
一方で別の活用法もあります。それは、先方に取引商品の平均単価をそのまま率直に伝えるという方法です。伝える際に「この価格は政府公式の貿易統計によるものであり信用性の高い数値である」ということを言い添えれば、取引価格を決める際の”大義名分”になり得ます。そうなれば、利益の最大化をある程度達成しつつ、交渉作業に労力を割かなくても良いというメリットがあります。
Ⅳ-2. 貿易実績分析(Results Analysis)
リスクを計る!
ある商品の貿易実績が存在するかどうかを知ることは、ビジネスでは時に重要です。例えば、A国の企業からある商品の輸出オファーがあったとします。そこで貿易統計を調べたところ、同商品の(自国への)輸出実績が皆無か、極小だった場合、それは取引上、一つのリスク要因になるでしょう。なぜなら、(輸出を通じて)自国市場の品質基準にさらされた経験がない(若しくは乏しい)ということになるからです。
しかし、考え方によっては、それはプラスの要因にも転じ得ます。例えば、「貿易統計上に実績が無い(乏しい)ので不安だ」ということを先方に率直に伝えることによって、交渉価格をディスカウントさせる口実になり得るからです。このように「実績の有無」についての捉え方はケースバイケースです。
Ⅳ-3. 需給分析(Supply & Demand Analysis)
需給を探る!
需給分析は平均単価分析に近いものですが、平均単価分析が価格そのものに着目したものであるのに対し、こちらは価格の変化に着目した分析です。端的に説明すると、輸出であれ輸入であれ、平均単価が過去に比べて上昇している貿易商品があれば、そこにはビジネスチャンスがあるという考え方です。
経済学的に考えて、ある商品の価格(平均単価)が上昇するということは、供給に比べて需要が超過しているということになります。つまり、その商品を求める人(需要者)の数に対して供給する人(供給者)の数が足りないということを意味します。そのような場合、市場は売り手の優位となり価格(平均単価)も上がります。(※物価の上昇など他の要因も考えられることに注意)そのような「売り手市場」に供給者(輸入者)として参入することができれば、高い利益を得られる可能性があります。
Ⅳ-4. 港別分析(Port Analysis)
解像度を上げる!
港別の貿易統計が分かれば、より解像度の高いマーケティング情報が得られます。日本の場合、税関別輸出入統計(以下、港別統計と略)がこれに該当します。どのような商品も国内の港を通って輸出入されますが、それら実績を港別にカウントしたこの統計を分析すれば、より解像度の高い情報を得ることができます。同じ商品でも、港によって、価格や数量はもちろん、平均単価も異なるケースがあります。また、商品によっては特定の港に輸出入が偏るケースもあります。
Ⅳ-5. 外国基準分析(Global Analysis)
地球規模で考える!
日本の貿易統計だけではなく、外国基準の貿易統計を見れば、自社取扱商品のより多面的な情報を得ることができます。例えば、ある商品を自国に輸出するA国が、一方でB国に対しては同商品をどのような条件で輸出しているのかを知ることができれば、それはA国企業に対する一つの交渉材料になり得ます。
仮に自社向けの取引単価が(運賃差を勘案しても)B国のそれよりも割高であることが貿易統計上分かったとします。そのような場合、A国企業に対してその旨を伝えて、取引単価を「B国並み」にディスカウントさせるというような交渉方法が一つ成り立つことになります。
また、自国が絡まない統計であっても、世界の他の国々が、同商品をどの国々に輸出しているのかを地球規模で見ておくことも参考になります。それによって例えば、自国とは取引実績がまだない(若しくは取引量が微量の)国であったとしても、自国と地理的距離が近い、あるいは取引単価(平均単価)が望ましい国があれば、(世界の企業情報サービスサイトなどを通じて)同国から取引候補を探し出し、より良い条件のビジネスを模索することが可能となります。
■Ⅴ. その他の貿易統計の知識
Ⅴ-1. 貿易統計の不整合問題
貿易統計の不整合問題とは、ある国が公表する輸出入額と、(それに対応する)相手国が公表する輸出入額が一致しない問題である。この問題は様々な学術研究がなされている。主な要因としては、輸出統計と輸入統計の作成基準の相違がある。基本的にどの国の貿易統計も、輸出については、FOB価格(本船渡し価格)、輸入については、CIF価格(保険料・運賃込み価格)で計上されていることから、この相違が生じるのである。
他にも税関におけるデータの記録エラーや、関税忌避のための不正貿易(密貿易)の存在も要因の一つとして考えられている。
Ⅴ-2. その他の貿易統計コード
HS コード以外の主要な分類モデルとして、SITC コード(The Standard International Trade Classification/標準国際貿易商品分類)というものがある。これは全5 桁(大中小の分類)の分類であり、主に国際レベルでの経済分析や学術用途で利用されている。
また、日本には「概況品コード」というものがあり、これはいくつかのHS コードによる統計品目をまとめて、一般的な名称を付したものである。
以上
作成:WTS研究所(2025年3月)